抗免疫チェックポイント抗体療法は膀胱がん患者の膀胱温存につながるか?

「Journal of Clinical Oncology」誌のオンライン版に「Pembrolizumab as Neoadjuvant Therapy Before Radical Cystectomy in Patients With Muscle-Invasive Urothelial Bladder Carcinoma(PURE-01):An Open-Label,Single-Arm,Phase Ⅱ Study」というタイトルの論文が報告されている。

 

T3bN0(27症例)、T2N0(21名)を主とする50症例の膀胱がんに対して、膀胱全摘出前にPembrolizumab(抗PD-1抗体)で治療を行い、膀胱がんに対する効果を調べたものだ。T3は膀胱がんの外の脂肪細胞まで広がったもの、T2は膀胱の筋肉内にまで広がったがんを意味する。Pembrolizumab200㎎を3週おきに3回投与を受け、その後に、全症例が膀胱全摘出術を受けて、病理学的(顕微鏡的)検査で評価を受けている。

 

1症例が肝機能障害によって、3回の投与を終えることができなかった。21症例では、病理学的にがん細胞が検出されなかった。これらの症例を含め27症例でT1、あるいは、T0にダウンステージングが認められた。これは、筋肉層からがん細胞がなくなり、尿道から内視鏡を入れてがん細胞を切除して、膀胱を温存できる可能性を示している。特に、PD-L1の発現が高く、がんでの遺伝子異常数の多い症例で、効果が期待できるようだ。これらのがんでは、手術で摘出した組織内で強い免疫反応が起こっていた。この研究では、全症例で膀胱全摘出手術を行ったので、ダウンステージの患者さんに対して、内視鏡による膀胱温存術を行った場合での膀胱内再発率は検討できていない。

 

膀胱を全部摘出するということは、尿をためておく袋がなくなることを意味する。小腸や大腸を一部切除して、自分で排泄できるような膀胱を人工的に作る方法もあるが、多くの場合、尿管を皮膚に縫い付けて、尿を体外のバッグにためておく方法が取られている。したがって、膀胱を温存できるかどうかは、生活の質に大きな影響を与えることになる。

 

最優先されるのは、がんによって命を落とすことを回避することであると私は考えているが、患者さんによっては、膀胱摘出を受け入れない場合がある。その気持ちは十分に理解できるし、従来も術前化学療法によるダウンステージングが図られていたが、患者さんへのダメージが大きい。それに対して、わずか3回の投与で、半数近くの患者さんで顕微鏡で調べてもがんが見つからなくなる。がん細胞での遺伝子異常数が多く、PD-L1陽性例では半数を上回る例でpT0となる結果は、患者さんの生活の質の観点からは極めて重要な情報だ。ただし、今後、これが再発を抑えるか、患者さんの命を救えるかどうかの評価は必要だが。

 

そして、このきわめて高い有効率は、免疫系が弱っていない条件下では、免疫チェックポイント抗体の効果がより高まる可能性絵を示すものだ。免疫力の低下を引き起こす抗がん剤療法を標準療法として受けることが、免疫チェックポイント抗体治療を受ける条件なるなど、科学的にどのように考えてもおかしい。がん治療革命が必要だと痛感した。

 

他人のやることをエビデンスがないと非難するだけでなく、患者さんのために、科学的な思考でエビデンスを積み上げるべく医師主導型臨床試験を進めることが、国をけん引するセンターの責任ではないのか。予算がなければ、がん患者さんや家族のために予算を確保できるよう努めることも、彼らの責任だと思う。

 

文責:シカゴ大学名誉教授 中村祐輔